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入社5年目の春、山本は突然スポーツクラブ「レヴァン」(現在の「ティップネス」の前身)を運営する事業会社に出向を命じられた。入社以来やってきたのはリゾートマンションの開発だったため、スポーツクラブ運営のノウハウ・経験などまったくない。丸紅の開発建設部門と連携して用地を借り、新規店舗を造るという不動産開発分野の仕事もあるが、同時に既存の10店舗を運営していかなければならない。しかも、それまで出向していた2人の先輩が入れ替わりに丸紅に戻ってしまうというのだ。
「何も知らない自分に果たして務まるだろうか?」と山本は思った。
のちにこのスポーツクラブでの経験が、丸紅の新たな不動産開発ビジネスを切り拓いていくための下地になるとはこの時には予想もしなかった。
「社員たちは我々をいつも見ているぞ。丸紅から一時的に来て、いつかは去ってしまうという意識を感じさせたら壁ができてしまう。思い切って彼らの中に飛び込んで自分を出せ。自分から事業を引っぱっていくんだ」
これが先輩たちのアドバイスだった。
スポーツクラブ経営はやってみると面白かった。新規出店も2店手がけたが、それ以上に店舗を運営していくことが刺激的だった。180人ほどいる社員はほとんどが山本より若い。スポーツは好きだが、スポーツクラブというサービスを提供するプロフェッショナルとしての意識は不足している。山本は毎日積極的に店舗を回り、支配人や社員1人1人と話をした。企業としてのビジネスとは何か、そのためにお客である会員に何を提供するのかなど、仕事の基本的な意識づけ、動機づけから、個人的な相談事まで何でも腹を割って話した。ときには若い社員たちを飲みに連れていった。高校時代まで水泳選手だった経験を生かして、急に休んだ水泳のインストラクターの代わりにプールに入ったりもした。
「川下ビジネスの現場で従業員や顧客と直に接することで、丸紅本体にいては見えなかった様々なことを学ぶことができました。特に社員たちと親しく接したことは大きな収穫でしたね。若い人たちはとてもデリケートです。悩みや疑問に即答してやらないとすぐに辞めていってしまう。その代わり、きちんと向き合い、モチベーションを高めてやれば、懸命に仕事をしてくれます。ビジネスの器である店舗を造るだけでなく、そこで働く人たちの動かし方を学んだ2年間でした」 |
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