世界のトッププレーヤーとの競争に勝ち抜け。代表取締役社長 國分 文也

自分で発想し、頑張り抜くことができる人に来てほしい。

人生の航路は、夢で描いた通りに進んでいくとは限らない。嵐に遭い、針路変更を余儀なくされることもある。國分文也の人生もそうだった。そもそも学生時代は就職するつもりすらなかったのだ。

「人に命令されて働くのが嫌だったんです。起業して一国一城の主になりたいと思って、仲間といくつも事業計画を立てました。中古車のオークション、サプリメントの販売、うなぎの養殖……。事業について考えるのは楽しかったけど、結局、夢に終わってしまいました」

ただ、うなぎの養殖は最後まで実現を模索。稚魚の輸入から、養殖地の選定まで詳細な計画を立てた。しかし、最低でも5000万円もの資金が必要だった。

「いろんな人に事業計画を説明して回ったんですけど、投資家が見つからなくて、大学4年生にあがるタイミングでギブアップしました。いまでこそ、うなぎは高騰しているけど、40年は待てなかったと思うから、やらなくて正解でしょう(苦笑)」

起業の夢は一度封印。就職へと舵を切る。将来起業するなら、まず商社で勉強させてもらおうと考え、丸紅へ入社することに。当初の第一希望は水産部門。うなぎの夢を諦めきれなかったからだ。しかし、実際に配属されたのは第二希望の石油部門だった。

最初は気乗りしなかったサラリーマン生活だが、営業を担当するようになって、仕事のおもしろさに気づき始める。

「当時は海外とのやりとりをテレックス(電信)でやっていて、最初のうちは先輩が書く原稿を機械に打ち込むのが仕事でした。でも、先輩の文面と入電する情報を見比べるうちに、だんだん売買の動きが分かってくるわけです。ニューヨーク、ロンドン、パリなど、市場からの情報を受け取って、お客さんである日本の石油会社に話を持っていく。大学時代に中古車のオークションをやろうとしていたくらいだから、相場と売買の基本はわかっている。石油も同じだと気づいて、トレードに興味が湧きはじめたんです」

ニューヨークで経験した勝負師としての絶頂と挫折

ある日、先輩と食事をしているときに、ふと「おまえの夢は何だ?」と聞かれた。國分が答えられずにいると、先輩は言った。「商社マンは夢だぞ」。夢を持って挑戦し、実現するのが商社マンの醍醐味。ロマンのある仕事だ──國分はそう受けとめた。

そこからトレーダーとして世界で勝負することが夢となった。ここぞという時は誰よりも早く出社。テレックスからいい情報を抜き取り、次々と取引を成約させていく。課内での競争も辞さなかった。

「上司には『波風を立てるな』とずいぶん怒られました。たぶん上から見たら、手の付けようのない生意気な若者だったと思います」

実績を積み、自信を深めた國分は、入社9年目、30歳で原油取引の一大拠点であるニューヨークに赴任する。当時、ニューヨークの市場では原油の先物取引が始まったばかり。國分は「これからは先物が主流になる」と本社を説得。トレードに乗り出した。

世界情勢を読み、市場を分析し、相場変動のリスクをとって利益をあげる。快進撃を続けた國分は、1987年に現地の石油会社と合弁で新会社を設立。年間700万ドルの純利益をあげるまでに成長させる。夢に手が届こうとしていた。

「その頃は、もう日本には帰らないという気持ちですよね。どこかのタイミングで完全に独立しようと思っていました」

そんなとき突如、嵐が襲う。イラクがクウェートに侵攻、湾岸戦争が勃発したのだ。相場が荒れる中、ポジションが裏目に出て赤字が拡大。損失は960万ドルにまで膨らんだ。本社から事業停止を言い渡された國分は、断腸の思いで従業員に解雇を通告。彼らの再就職先を必死で探し回る。「会社は血も肉もある生きものなんだ」。そう痛感した。

初の海外出張(一番右が國分社長)

アメリカでの10年間、國分はトレーダーとして旬を迎えると同時に、たえず緊張感にさらされていたという。

「トレードっていうのは結果がすべてなんです。日本人はよく『こういう理由で失敗しました』と言い訳をしますが、理由はどうあれ、儲かれば勝ち、損をすれば負け。アメリカではパフォーマンスが低ければ、すぐに切られます。
サラリーマン的に上司や周囲とコンセンサスをとりながらやっていたら、絶対に負けます。普通の人間は、価格のピークに向かって強気になり、ボトムに向かって弱気になる。9割の人間がひとつの方向に流される中で、独自の分析・判断をして、実行できる人間じゃないと、トレードでは勝てません」

絶頂から奈落の底へ。その経験が、國分の商社人生の第二の出発点となる。

セカンドチャンスで開けた新たな地平

本社の原油課へ戻り、再起を考えながら日々のオペレーションを続ける中で、セカンドチャンスは思ったよりも早く訪れた。経営不振に陥っていたシンガポールの子会社、丸紅インターナショナルペトロリアム社を立て直せという社命である。

「今度はトレードではなく、完全にマネジメントの仕事でした。そこで新しい方向に踏み出せたのは、自分にとっては大きな一歩。チャンスを与えてくれた会社には本当に感謝しています」

丸紅には若手に挑戦させ、失敗してもセカンドチャンスを与えて育てていくという風土がある。

「僕がアメリカで会社を興すときも、『こんな若造にやらせて本当に大丈夫なのか』という声はありました。それでも、『挑戦してみろ』と押してくれる上司がいた。それが丸紅という会社なんです」

シンガポールでのミッションを果たした國分は、石油第二部長、石油・ガス開発部長へと昇進。ラインを駆け上がり、組織をマネジメントする才能を発揮していく。そして50歳のとき、丸紅香港華南会社の社長として香港に赴任。そこにはこれまでとはまったく異なる大海が広がっていた。

「石油しか知らなかった人間が、機械、自動車、繊維、食品、ありとあらゆるものを扱うようになったわけで、見るもの、聞くこと、すべてが新鮮で驚きの連続でした。しかも、中国経済が急激に拡大する時期だったから、新しい事業に挑戦している活きのいい連中がたくさんいた。日本人からはとても出てこないアイデアが飛び交っていて、彼らと話をするのは本当に楽しかったですね」

うなぎの養殖で一旗揚げようとしていた学生時代のように、毎日ワクワクしている自分に気づいた。アイデアさえあれば、商社のビジネスには無限の可能性が広がっているのだ──。

ゲームチェンジの時代に求められる人材

2013年、國分文也は丸紅の代表取締役社長に就任した。一国一城の主どころか、4万人の社員、448のグループ企業を擁する大船団を率いることになったのである。いま彼の目には、大きな変化の波が映っている。

「世の中はゲームチェンジの時代に入っていると思うんです。ひとつには、トランプ大統領の登場やイギリスのEU離脱の動きからも分かるように、新自由主義的なグローバリズムが転換期を迎えています。ブロック化の可能性も指摘されていますが、もしそうなれば製造業のサプライチェーンは変わってくるだろうし、商社の戦略も変わらざるをえない。

もうひとつは、IoT、ビッグデータ、AIによって、ビジネスの基本構造さえ変わってしまう可能性があるということです。たとえば、UBERの例では、従来のタクシービジネスが仲介ビジネスというモデルに変えられました。タクシーを一台も持たずにタクシービジネスをする──発想の転換です。つまり、資産や生産力で勝負する時代から、知で勝負する世の中に変わってきているんです」

そういった時代の変化に対して、商社はどう対応すべきなのだろうか。

「たとえば投資をするときも、ある会社を買って、そこからあがる利益を取り込むだけではだめです。その投資によって、次に何を起こすのか? そこでの発想力と戦略性が求められています。

うちのグループ企業のひとつに、ヘレナケミカル社という肥料や農薬を扱っている会社があります。彼らは小売りに留まらず、ジェネリック農薬の製造や、GPSを利用した農薬散布などの技術サービス提供まで行っている。メーカーから仕入れて、農家に売るだけだと利益は限られている。でも、農家に対する〝トータルソリューションプロバイダー〟となることで、顧客との強固な信頼関係を築き、結果として格段に大きな利益を得ることができるのです。しかもヘレナケミカル社のようなグループ企業を持っていることで、その商品・サービス群も我々のアセットになっている。

電力本部なら、AI、ビッグデータを利用して発電効率を1%向上させることができたらどうなるか? コストダウンだけじゃない。その効率化の仕組みをアプリケーションにして、他の電力事業者に売ることも考えられるでしょう。

1+1=2という発想ではもう勝てません。アセットを組み合わせ、アイデアを乗せて、3にも4にもしていく。そういう発想が求められているんです」

それにつれて期待される人材像も変わってきている。そこでもキーワードは「知の勝負」だ。

「ただ頑張るだけでも、オフィスに座って考えているだけでもだめです。顧客と全身全霊で向き合い、あらゆることを頭を使って深く考え、自分で発想した上で、頑張り抜くことができる人間。そういう人に来てほしいと思っています」

丸紅がいま全力で取り組んでいるのが、新中期経営計画「Global Challenge 2018」だ。その中で國分は、「世界のトッププレーヤーとの競争に勝ち抜け」と社員を鼓舞している。

「僕が若いころというのは、商社は商社と戦っていればよかった。ところが、いまはある分野で強みを発揮すればするほど、相手は商社じゃなくなり、その分野の世界的トップ企業と戦うことになる。競争の構造が変わってきているんですよ」

世界のトッププレーヤーと戦うことで、戦略も発想も磨かれ、自身のレベルも上がっていく。

「これから入ってくる若い人には、ぜひファイティングスピリットを持ってほしい。『これをやりたい』という夢を持ったら、それを実現するために何が必要か、とことん考え抜くこと。そうすれば必ず道は拓けます。丸紅は挑戦する人間にチャンスを与える会社です。夢に向かって本気でチャレンジする人を待っています」

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