Person

「やってみろ」
若手が挑戦できる風土こそ丸紅の原点

総合職
小川 陽平
アルジェ支店

これまでやったことのないスキームに挑む


2012年4月。サウジアラビアの首都リヤド、その地から紅海に向かって1,000キロ離れた街ジェッダに小川陽平はいた。彼がこの地に一人乗り込んだ理由、それはピンチをチャンスに変えるためである。
小川は入社以来一貫して自動車ビジネスで中近東・アフリカ地区を担当し、トレードビジネスでのキャリアを積んできた。その小川の前に2010年、ある難題が立ち塞がる。「担当する販売代理店の経営状況が悪化し、改善の兆しが見られなかったのです」。小川は自動車メーカーA社の製品の中東地域へのトレードを担当している。サウジアラビアは湾岸諸国の中では最大の市場規模を有する国。代理店は同国全域に広がる支店網を活かして、A社の主力製品である排気量1.6ℓのピックアップトラックを販売し、このクラスでは抜群のシェアを誇っていた。だが…。
「好調だった業績はリーマンショックに伴う同国の金融引き締めとともに陰りを見せ始めました。ローンによる販売は拡販の有力な手段でしたが、運転資金の調達が思い通りにいかず、販売と代金回収の間にミスマッチが発生し始めたのです」。

代理店の財務状況を改善し、経営破綻のリスクをヘッジすること。そのためには、在庫を減らすことでバランスシートの改善を図る。しかし在庫がなければ、販売機会の逸失も起きる。どうすれば良いのか? 小川たちが考えた突破口、それは「これまでやったことのないスキームに挑む」ことだった。「丸紅がサウジアラビアで在庫を持ち、そこから代理店に必要台数を即時供給することで、代理店は在庫に係る資金負担を軽減し、販売機会を逸することも防げる、そう考えたのです」。

たった一人であっても、世界で戦う


小川たちのスキームは、ある条件付きで承認された。それは代理店の経営を最も近い場所でモニタリングすることだった。「万が一代理店が倒産した際、丸紅が抱えている在庫を第三国に転売できなければ、在庫はすべて丸紅が引き受けることになってしまいます。丸紅としては、代理店のすぐそばで経営状況にアクセスできる関係を構築することが必要でした」。しかしサウジアラビアのビジネス文化は、“信頼”がベース。経営状況へのアクセスは、その文化に馴染まないことも小川たちは感じていた。では、誰がその難題に当たるのか。「私が自分で行くつもりでした。自分たちで考えたことですから、自分が何とかしなければと」。丸紅は若手の提案も積極的に採用し、本人に任せるカルチャーがある。やりがいはあるが、厳しさもそれ以上にある。

代理店の本社があるジェッダに一人立った小川を待ち受けていたのは、想像通りの戦いだった。小川は代理店に「私のオフィスを御社の片隅に間借りさせてほしい」と願い出た。「部外者は必要ない」。だが、小川も引けない。ひたすら粘ってようやく用意されたのは小さな空き部屋。そこを“オフィス”に、小川の駐在の日々が始まった。

関係を築くことの大切さ

代理店の本社に“居候”することになった小川が、経営情報収集のターゲットとしたのは、代理店の社長、副社長、財務部門のリーダーの3人。だが彼らにはなかなか会えない。そこで小川はオフィスが隣だったマーケティングチームへの接触を試みた。毎週のブレックファーストミーティングに参加し、メーカーであるA社から、販促に関する支援をどのようにとりつけたらいいのか、日本とサウジアラビアのコミュニケーションはどこが異なるのか、相違を乗り越えるにはどうすればいいのか、そんな話を小川は朝食をとりながら伝えた。地道な関係構築を積み重ね、徐々にだが、情報が小川に集まるようになっていった。
一方で小川は、A社の担当者とも議論を重ねた。代理店の倒産はメーカー側も避けたい。深刻な危機感を共有する中で、小川はある提案をする。「インドネシアで生産されるこのピックアップトラックの場合、発注してから工場出荷まで約5カ月を要します。その間、生産ライン上の半完成車など、いわゆる物流在庫もつねに4〜5カ月分ほど溜まります。この在庫リスクも、まずは丸紅が取らなければなりませんが、それでは私たちも踏み込みにくい。なので、この部分の突っ込んだ交渉をしたのです」。

その結果、経営破綻した場合の在庫に関して、A社の全世界の代理店への転売交渉、販路の確保についても小川たちはA社から最大限の協力を得る合意を取り付けた。それは、この代理店を再建するためにあらゆるリスクをヘッジして、一歩も引かない覚悟で向き合おうとする小川の意志と、メーカー担当者の想いが共鳴し、信頼関係が結ばれたからこそのことだった。

たとえ一人であっても世界に向き合い、信頼をつかむ

2013年6月。小川は日本に帰任した。が、いまもサウジアラビアの代理店は小川たちの考えたスキームに基づき再建のための闘いを続けている。孤独な環境下で粘り強く代理店社員たちと関係構築を図った日々。同じ再建のビジョンのもと、強い信頼関係で結ばれたメーカーとの関係。「後退はない、というギリギリの局面で、たとえ一人であっても世界に向き合い、どうしたら関係を構築できるのか、信頼を築けるのかに挑んでいく。それがグローバルなビジネスの醍醐味だと思うし、そのスキルが磨かれたという実感があります」。
丸紅はいま、小川の築いた関係をベースにさらに次の一手を打つべく、代理店との商談に挑み続けている。


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