Person

資源メジャーの寡占化に
立ち向かう若き侍

総合職
村岡 明
海外研修生 専門分野研修生
取材時:ロイヒル鉄鉱山
金属資源本部 鉄鋼原料事業部 ロイヒル事業課

独自の鉱山を切り拓け!資源メジャーへの挑戦

荒涼とした大地に、それは突如として現れた。鉄鋼原料事業部に所属する村岡明が、オーストラリア西部に位置するロイヒル鉄鉱山を初めて訪れたときは、そのスケール感に息を呑んだという。
丸紅は2012年から、オーストラリア最大級の鉄鉱石鉱山、ロイヒル鉄鉱山の開発プロジェクトに参画。2年にわたる開発の後、2015年から世界の需要家に向け、鉄鉱石の出荷を行っている。
日本は鉄鉱石のほぼ100%を輸入に頼っている。安定調達のため、日本の製鉄会社は、複数の取引先から分散して鉄鉱石を購入することを基本としていた。だが近年“資源メジャー”と呼ばれる巨大企業により鉄鉱石取引は寡占化されている。これ以上寡占が進めば、日本の製鉄業の購買戦略は瓦解しかねない。状況を打破するには、日本企業が独自のルートで、鉄鉱山の権益を確保する必要があった。
村岡が入社以来4年間、関わり続けてきたプロジェクトの背景には、そんな大きな使命が込められていた。

採掘から船積まで一貫して行う、巨大プロジェクト

「鉱山」と聞くと、力仕事の泥臭い現場をイメージしがちだが、ロイヒルを訪れてみると、驚くような光景が広がっている。従業員や関係者が宿泊するキャンプはホテル並みのクオリティ。食堂やバー、コンビニはもちろん、テニスコートやプールなどのレクリエーション施設まで備えている。IT化と機械化が進んだ最新鉱山の現場は、いまや洗練された環境へと変貌しているのだ。
だが、ロイヒルの本当の凄さは、一目で見渡せるような規模ではなかった。
「鉄鉱山の開発は、ただ掘ればいいというわけではありません。大量に採掘しても、出荷するポイントまで運べないと意味がない。効率的に運搬しないとコストが高くなってしまう。だから鉱山には、鉱石を運搬する鉄道や、船積するための港湾設備といったインフラが欠かせないんです。さらに競争力を高めるためには、低コストを実現するための工夫が必要なんです」
ロイヒルでは、採掘から輸送、出荷までを専用設備で一貫して行える体制を整えた。採掘した鉄鉱石を洗浄して大きさを揃えるためのサイジングプラントや、貯蔵するためのストックヤードなどを建設。鉱山から積出港のポートヘッドランドまでは、全長約340km(東京—名古屋間とほぼ同じ)にも及ぶ鉄道を新設した。200両を超える貨車を編成し、採掘した鉄鉱石を効率的に港まで運搬するシステムだ。さらに、主に日本をはじめとするアジアへ向けて出航する大型輸送船が接岸できるよう、港湾設備も建設。どれも最新の技術を駆使した設備で、採掘から輸送までの低コストを実現している。

総工費1兆円のプロジェクト 、成功の決め手は融資交渉

総工費、およそ1兆円——。巨大な資金を動かす資源メジャーならともかく、ジュニアサプライヤーが国家予算規模の資金を捻出することは並大抵のことではない。プロジェクトを成功させるためには、外部からの資金調達が鍵となる。
村岡が担当したのは、その資金調達に関わるファイナンス業務だった。
「丸紅自身や他の株主も資金を拠出しますが、当然、それだけで賄える金額ではありません。銀行などから融資を受けるためには、貸し手側に魅力的な事業だと判断してもらわなければならない。一方で、融資をしてもらうからといって、こちらにも譲れない条件があります。そうした交渉が、このプロジェクトを実現するための最大のハードルでした」
銀行団との交渉は、困難を極めた。というのも、村岡らのチームが提案した融資条件は、鉄鉱石業界ではほとんど前例のないものだったからだ。
「ロイヒルは『プロジェクトファイナンス』という仕組みで資金調達をしました。これは、丸紅や他の株主が資金を借り入れるのではなく、我々がロイヒル鉄鉱山を運営する事業会社を立ち上げ、その事業会社が資金を借りるというスキームです。返済もこの事業会社が行うため、丸紅や他の株主は原則返済義務を負いません。銀行側としては、計画にリスクを感じたら、当然お金を貸してくれません」
ロイヒルプロジェクトは、絶対に成功する——。銀行団にそれを納得してもらうため、村岡は気が遠くなるような量のデータと日々格闘することとなった。
「鉄鉱石や原油の価格、為替などをもとに、コスト計算や生産計画の策定を行いました。とにかくデータが膨大で、事業計画ひとつ取っても、エクセルで30シート以上。なかには1000行を超えるシートもあったので、分析するだけでも相当根気のいる作業でした。でも、こうした過程で、社外のパートナー、コンサルタントともたくさん議論させてもらえた。私のような若手でも、プロジェクトの重要な意思決定に関わることができたのは貴重な経験でした。大変でしたけれど、自分自身が成長していく手応えのようなものを実感できたんです」
村岡を中心としたチームは、2年もの期間にわたって、輸出信用機関や市中銀行と繰り返し交渉を重ねた。その結果、トータル72億USドルという巨額のプロジェクトファイナンスを見事成立させる。
プロジェクトファイナンスとしては稀に見る大型案件を成立させたことは、金融業界からも大きな脚光を浴びた。経済誌や業界誌でもたびたび取り上げられ、*1海外の専門誌の賞まで獲得した。



日本のものづくりと世界を結ぶ、パイプ役になりたい

プロジェクト担当者として、めざましい成果をあげた村岡だが、学生時代は経済や金融とはまったく無縁だった。大学で4年間、大学院で2年間、金属の塑性加工を学んでいたのだ。
「硬い金属を加工する際には、鉄などの加工しやすい金属と違い、変形する工程で割れてしまったりする。私の専門は、そういう硬い金属材料の加工性を向上させる研究でした。加工方法を工夫したり、温度を変えたり、成分を変えてみたりと、試行錯誤しながら日々実験の繰り返し。まさに〝ものづくりの現場〟といった雰囲気の中で、学生生活を過ごしました」
だが、そんな村岡が就職先として希望したのは、ものを作るメーカーではなく、商社だった。一見、畑違いとも思えるこの選択の理由を、村岡はこう説明する。
「日本には優れた技術を持っているのに、世界からさほど評価されていない企業がたくさんあるんです。その原因は、技術力を世界にちゃんと発信できていないからではないかと思ったんです」
グローバルにビジネスを展開する総合商社ならば、日本が誇れる技術を世界に向けて売り込むチャンスがきっとあるはず。学生時代に学んだ金属加工の知識をいかして、日本の〝ものづくりの現場〟と世界を結ぶパイプ役になりたい——。そんな想いを抱いていた村岡にとって、総合商社への就職は決して畑違いの選択ではなかった。

歴史的プロジェクトの先に見据える、未来の商社への挑戦

プロジェクトを通して、グローバルな鉄鉱石の流通や、資源メジャーとの国際競争の最前線に立つことになった村岡。そんな中〝日本のものづくり〟に対する想いは、日に日に強くなってきたという。
「鉄鉱石はあらゆる日本のものづくりにとって欠かせない鉄の原料です。しかし、資源メジャーによる鉄鉱石業界の寡占は近年さらに強まってきました。このままでは、日本の産業全体に影響を及ぼしかねません。我々がロイヒル鉄鉱山の開発を進めれば、供給ソースを多様化できる。ロイヒルは日本へ安定して鉄鉱石を届けるために、とても意味のある事業なんです」
そうやって届けられた鉄鉱石から多くの製品が作られ、日本の高い技術を世界へ発信することへつながっていく。
「ロイヒルに携わるうち、今自分がやっている仕事は、自分の夢の実現そのものだったんだということに気づきました。日本の産業全体にとっても重要な、この歴史的プロジェクトに関われたことを誇りに思っています」
そんな村岡は、毎日早朝に出社し、退社後や休日に時間を作っては図書館へ向かう。新しいビジネスモデルが次々と生まれる激動の時代にあって、「これからの商社はどうあるべきなのか?」という問いに対し自分なりの答えを導き出そうとしているからだ。
「最近はIoTによって世の中が格段に変化しています。以前なら仲介を通して成り立っていたビジネスが、IT系企業によるサービスに取って代わられる事例も出てきています。現在、そのようなB to Cで起こっている変革が、今後B to Bにも押し寄せてくることになるでしょう。しかし、時代が変わっても何かを〝つなぐ〟役割は形を変えて残ります。つなぐ役割を担ってきた商社が今後も発展し続けるためには、そういう未来を予測して、これまでとは異なる何かを始めなければなりません」
常にチャレンジ精神を忘れず、先入観にとらわれず、新しい時代に立ち向かう。それが次なる世代へと引き継がれ、付加価値や新たな価値を創造する。村岡の中にある〝新しい明日への渇望〟は満たされることを知らない。一歩ずつ未来に向かって、確実に前進していく。

*1 雑誌『Project Finance International』の “Asia-Pacific Deal of the Year ”(2014年)と、雑誌『FinanceAsia』の“ 2014 Best Project Finance Deal ”という2つの賞を獲得した。

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