Person

世界を「俯瞰する力」で
プラットフォーム戦略を牽引する

総合職
岩本 未来
育児休職者
取材時:農業化学品本部
無機・農業化学品部 業務室

地域と世界が交差する場所で、誰よりも冷静でいたい

「会社をスポーツチームに例えるとしたら、私はマネージャーのような立場かな。選手はもちろん、世界各地を飛び回る営業の人間。チーム運営にあたるのが、管理部門の人間。私の役目は、そのどちらでもないんです。選手がベストの状態で戦えるよう、ありとあらゆるお膳立てをするのが私の役目。要するに〝裏方〟ですね」
一流のスポーツ選手が活躍する陰には、それを支える優秀な〝裏方〟がいるものだ。この岩本も、そんな存在だ。
丸紅の農業戦略を語るうえで欠かせない存在となっているのが、米国第2位の農業資材リテール販売会社、ヘレナケミカル社だ。
もともとは農薬メーカーの販売代理業社であった同社を、丸紅が買収したのは1987年。以来、販売商品を種子や肥料にも拡大し、農家に直接販売する「地域密着型ビジネス」を全米で展開。同時に、M&Aによって販売拠点を増強するなどの戦略が功を奏し、およそ30年で売上規模が買収当時の10倍を超えるほどの企業に成長した。
ヘレナケミカル社のような地域に密着した事業を買収・育成し、そこをプラットフォームとして、グローバルなビジネスへと結びつける——。この「プラットフォーム型」と呼ばれる成長モデルは、丸紅の農業戦略の大きな柱となっている。
岩本が所属する農業化学品本部は、ヘレナケミカル社を核とする北米エリアはもちろん、ヨーロッパ、アジア、そして日本にいたるまで、農業化学品分野をグローバルに統括している。
「選手、つまり営業の人間は、アメリカや中国など、それぞれ自分の担当する地域で闘っています。東京本社にいる私は、いわばフィールドの外にいるようなもの。でも、試合運びや相手の動きって、フィールドの外にいる方がよく見えますよね。試合中の選手って、ヒートアップして周りがよく見えていないこともある。それをフィールドの外にいる私がチェックして、選手に伝えるんです」

世界の食糧流通を担いたい、丸紅なら、それができる

学生時代から、農業に関わる仕事をしてみたいと思っていた。きっかけは一本のドキュメンタリー映画だった。
「『いのちの食べかた』という、ナレーションや音楽が一切ない、変わった作品で。私たちが日々食べている食材は、どこでどんなふうに作られて、どうやって食卓に届くのかということを、淡々と映し出すだけ。でもその中身はかなりショッキングなものでした。広大な畑の上から、飛行機がバーっと農薬を散布する様子や、家畜が解体されていく一部始終とか。それを見て、農業は農業でも、普段なかなか表に出てこない部分に興味を持ったんです」
実はこの映画、農作物の大量生産や、過剰な農薬散布など、現代の大規模農業をかなり批判的に描いている。だが、岩本の捉え方は少し違っていた。
「人々が幸せに暮らしていくためには、『今日食べるものが常にある』ということが基本ですよね。日本にいると気づきにくいけれど、世界全体を考えると、食糧は十分に行き渡っているとは言えない。畑を作っても、気象状況とか病虫害とか、安定した収穫を得るのは難しい。本来、農薬や肥料って、食糧を安定して供給するためにあるもの。その使われ方に問題があるのは事実だけれど、もっと正しい使われ方をすれば、きっとみんなが幸せになれる。問題はきっと農薬や肥料だけじゃない。農作物が生産されるまでの過程とか、世界的な食糧の流通とか、もっと広い視点から農業について考えてみたいと思うようになったんです」
世界の食糧流通を担う総合商社に就職したいと思うようになったのは、そんな理由からだった。

チャンスは逃さない、がむしゃらブラジル研修生活

入社後、岩本が最初に配属されたのは無機・農業化学品部。自ら希望した部署だったが、仕事は予想外の連続。
「入社早々、いきなり『山買うから、会議だ』って。肥料の原料になるリン鉱山に投資するので、その権益を買うっていうことだったんですけれど。まったく予想もしなかったものが、農業と深く関わっているのだということを、ずいぶん学びました」
農業の現場を見るチャンスが訪れたのは1年半後。肥料の販売を担当することになり、農協や農家を訪問した。
「畑にも入れてもらって、今年の天候だとか、収穫の時期だとか、実際に作物を作っている人たちの生の声が聞けたのは、本当に貴重な体験でした」が、入社3年目に思わぬ辞令が下る。

「突然『ブラジル行ってこい』と。『は? なんで私? なんでブラジル?』って感じでした(笑)。ポルトガル語を勉強したこともなかったし、仕事でも関わったことのない国でしたから」
ちょうどこのとき、プライベートでは結婚の話が持ち上がっていた。
「もちろん悩みました。でも1年間研修生としてポルトガル語を学べて、次の1年はビジネストレイニーとしてブラジル農業の現場を調査させてもらえる。このチャンスは逃したくなかった。気持ち良く送り出してくれた夫には、本当に感謝しています。新婚でいきなり海外別居。しかも地球の反対側という状況を受け入れてくれたんですから」
このブラジルでの2年間は、岩本を大きく成長させた。最初の1年間、集中してポルトガル語を学んだ後、サンパウロにある丸紅の現地法人でビジネストレイニーとして農業資材市場を調査したり、客先を訪問してブラジルの農業の現場を見ることができた。

「文化も歴史もコミュニケーションの仕方も全く違う人たちと付き合っていくってどういうことなのか、身をもって体験できました。今、仕事で海外の人と交渉することも多いんですが、ブラジルにいたときの経験がすごく役に立っています。ひと言では言い表せないくらい多くのことを吸収した2年間でした」

専門知識から法律まで超一流の〝なんでも屋〟に

帰国した岩本が配属されたのが、現在の農業化学品本部。新たな仕事として彼女に課されたのが〝裏方〟としての役割だった。
「営業と管理の間で何かもめごとが起きれば、間に立ってトラブルシューティングにあたりますし、対外的には広報業務なども担当します。ときには海外の事業会社が係争に巻き込まれていないか、在庫管理ができているかなどをチェックしたりもします。要するに〝なんでも屋〟ですね(笑)」
ヘレナケミカル社が米国で行なっているような「地域戦略」と、丸紅全体としての「世界戦略」を効果的に結びつけるためには、岩本のような〝なんでも屋〟的な存在が欠かせない。
「本部にいるからこそ、世界中の農業の現場で何が起こっているか、知ることができる。入社前『農業や食糧供給のシステムを大きな目線で捉えてみたい』と思っていたのですが、今の部署でやっている仕事がまさにそれなんです。だからすごく楽しい。農業の専門知識から海外の法律にいたるまで、勉強しなければならないことが多いのは、ちょっと大変なんですけれど」



使命は、世界中の人を、おなかいっぱいにすること

日々、精力的に仕事に取り組む岩本のモチベーションとなっているのは、農業化学品本部の本部長で、ヘレナケミカル社のCEOも兼任している直属の上司、マイク・マッカーティーが発したひと言だという。
「『我々の仕事は、“Feed The World”だ』と。シンプルだけれど、とても心に響きました。あっちに食べ物があるけれど、こっちにはない。それが現実。でも食糧の供給ビジネスに携っている商社なら、世界中の食卓に食べ物を届けるために、できることがある。普段私がやっている作業は、もめごとの仲裁だったり、書類のチェックだったりするんですが(笑)、もっと大きな目線で見れば、食糧の安定供給に欠かせない仕事をしているんだと、彼の言葉で改めて実感できたんです」
農家に生まれ育ったわけでもなく、学生時代に専門に勉強してきたわけでもない。なのに、どうしてそんなに食や農業に対して熱意があるのだろうか? 彼女の答えは、とてもシンプルだった。
「だって、おなかがすいてるときって、元気出ないし、怒りっぽくなったりするじゃないですか。でも、おなかいっぱいのときって幸せだし、ケンカする気にならないですよね(笑)。食べ物が十分にあることって、人々が平和に暮らしていくための大前提だと思うんです。世界中の人をおなかいっぱいにするための仕事をしていると思うと、すごくやりがいを感じます」

農業化学品本部業務室。2011年入社。無機・農業化学品部に配属。2014年からポルトガル語研修生、ビジネストレイニーとして2年間ブラジルに滞在。2016年4月から現職。大学では居合道部に所属。今はブラジル滞在中に学んだカポエイラをまた始めてみたいのだとか。

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