Person

アフリカの人々に電気を!
国家的大プロジェクトへの挑戦

総合職
禹 尚沃(ウ・サンオ)
電力本部 海外電力プロジェクト第四部
第一チーム
取材時:電力本部 海外電力プロジェクト第四部
電力事業第二チーム

発電所の建設だけではダメ!運営も売電も

「ボツワナって、一体どこだ?」
次のプロジェクトはボツワナ――。上司にそう告げられ、パソコンで地図を開いた。赤茶けた砂漠が一面に広がる風景を画面上で見た瞬間、膝から崩れ落ちた。
「参ったな。何にもないところだぞ」
禹尚沃の所属する電力本部海外電力プロジェクトチームは、海外における発電所建設や送電事業などを請け負う部署だ。
人口の増加や経済発展に伴い、世界の電力需要は伸び続ける一方だ。丸紅は1950年代から、いち早く電力ビジネスをスタートさせている。当初は日本メーカーの発電設備をアジア各国へ輸出するだけであったが、時代の変化とともに事業の内容は大きく進化した。
1980年代には発電所の設計から調達、建設までを一括して請け負う*1EPC事業を開始。1990年代からは、建設した発電設備を自ら所有・運営し、発電した電力の卸売まで担う*2IPPにも積極的に参入。今回、禹が関わることになったボツワナのケースも、IPPとしての案件だった。

慢性的な電力不足に悩む未知の国、ボツワナ共和国

アフリカ大陸の南部に位置するボツワナ共和国は、人口約200万人、面積は日本のおよそ1・5倍の内陸国だ。ダイヤモンドの産出量は世界第2位。政治的にも安定し、アフリカ諸国の中では最も経済発展が進んだ国だといえる。国債の信用度を示す格付け会社のランキングでも、評価はA-(日本はA+)。
だが現地を訪れてみると、やはり印象は違っていた。数字の上では〝豊かな国〟でも、人々の暮らしはまだまだ発展途上。その要因が、慢性的な「電力不足」にあることはすぐ理解できた。
「ホテルにいても、オフィスにいても、すぐ停電する。電力供給がこんなに逼迫しているとは思いませんでした」
発電所の建設予定地であるボツワナ東部の都市、モルプレへ向かうタクシーの車内でも、こんなことがあった。
「行き先を告げたとたん、『モルプレ? 日本から来た? じゃあ発電所の仕事か?』ってまくしたてられました。『俺たち電気足りなくて困ってるんだ。がんばってくれよ』って、延々と(笑)」
これから自分が関わろうとしている仕事が、この国で暮らす人々にとっていかに重要か――。それを痛感した。
「発電所建設に日本の企業が関わっていると誰もが知っていること自体、関心の高さがわかりますよね。しかも日本に対する期待がものすごく大きい。『日本の会社なら、あっという間にすごい発電所を作ってくれるんでしょ?』ってあっちこっちで言われるんだから、すごいプレッシャーですよ(笑)」
日本が期待されていたのには理由があった。その何年か前、外国企業が手がける別の電力プロジェクトがあったのだが、期待を下回るような結果しか出せずに終わっていたのだ。



現地の人から与えられた、ツェホ(信頼)という名の重み

IPP事業は、商社が出資者となって事業会社を設立するところからスタートする。国家的プロジェクトゆえに政府関係者とさまざまな調整を重ねたうえで、銀行から融資を募り、土地の使用契約を結び、まずは発電所を建設する。建設が完了した後も、燃料会社との契約から、発電所の運営や保守点検、地元電力会社との売電契約まで、すべてを一貫して請け負うため、長期にわたり、あらゆる方面とのタフな交渉が必要となるプロジェクトだ。
禹にとっての最初の関門は、文化も習慣もまったく違うアフリカの人々と、いかに信頼関係を築くかだった。
「ボツワナの人たちって、人情があって親しみやすいんですが、反面とてものんびりしてる。急ぎの要件で電話やメールをしても、返事がこないとか、ザラです。マイペースなだけで、全然悪気はないんですよ」
「郷に入っては郷に従え」という言葉もあるが、ビジネスの場合、そうはいかないこともある。相手のペースに合わせていたら、プロジェクトは進まない。禹はとにかく足を運び、相手と直接話すことを心がけた。
「もう泥臭い作戦で行くしかなかった。英語でも交渉はできるんですけれど、挨拶くらいは現地の*3ツワナ語で話そう、と。どこへ行っても『ドゥメラ(こんにちは)、ケコパトゥソ(お願いがあります)』で始めたら、相手もおもしろがってくれて。スケジュール感覚も、徐々に理解してもらえるようになりました。誠実に接してさえいれば、気持ちって必ず伝わる」
政府の職員たちともだいぶ打ち解けてきたころ、禹はなぜか「ツェホ」と呼びかけられるようになった。
「『なんでツェホって呼ぶの?』と聞いてもニヤっと笑うだけ。後からツワナ語で〝信頼〟を意味する言葉だと知ったときは、さすがにジーンときました」
この人たちを裏切るわけにはいかない――。禹のモチベーションが格段にあがったのは、このときだったという。
だが、国家的大プロジェクトがそう簡単に進むわけはない。インフラ事業には、多くのステークホルダーが関わる。そのすべてに賛同してもらえるプランでないと、事業は実現しない。
「ボツワナに発電所が必要なことはみんなわかっています。じゃあとにかく作ればいいかというと、そうはいかない。大切なのは関わる人すべてに〝利益が出る〟かどうか。我々はビジネスをしにきた商社マンであって、慈善事業をしにきたわけじゃない。みんなに得をさせるからこそ、何十年も続くプロジェクトが成立するんです」

自分たちは必要とされているその強い自負が、
挑戦をさらに大きくする

「本当に成功するのか?」「ちゃんと儲かるのか?」。懐疑的な言葉を投げかけられれば、その都度相手先に駆けつけた。納得するまで説明したり、ときには折り合いのつく解決策を見出したりして、ピンチをいくつも切り抜けた。慣れないアフリカの地で、気力も体力も限界を超えそうなときもあった。
「難局に陥っても、落ち込んでるヒマなんてない。『これで給料をもらっているんだから、進められなくてどうする!』と自分を奮い立たせました」
会社の先輩たちの顔も思い浮かんだ。IPP事業のような大型のインフラビジネスは、国際競争が激しい。熾烈な競争を勝ち抜いて、受注を獲得するまでには、多くの先輩社員が関わっている。
「受注競争の何年も前から、アフリカ中を歩き回って、ツテも何もないところから事業を開拓した先輩たちがいる。その努力や苦労は、きっと並大抵のものじゃない。ここへきて実際に自分が働いてみて、それがよくわかった。だからこそ、ちょっとやそっとのことで失敗なんかできません」
でも、やはり禹の心を一番支えたのは「ボツワナの人たちの期待を裏切りたくない」という気持ちだった。
「停電して、街中が困っている状況に何度も直面しました。仕事の関係者はもちろん、食堂の店主や、街で出会った人までもが『発電所、よろしく頼むな!』と応援してくれる。自分たちの仕事が必要とされていることを、これほどまでに実感できたプロジェクトは初めてでした。だからこそ、その期待に応えたかった」
モノやお金をグローバルに動かす商社のビジネスは、そのスケールが大きすぎて、何をやっているのか、何のためにやっているのか、一般の人にはなかなかわかりにくいところがある。
「でも電力事業って、特に今回のボツワナのケースなんかは、ある意味、すごくわかりやすい。プロジェクトが成功して電気が十分に供給されるようになれば、暗かった街に明かりが灯る。商店や工場がもっと営業できるようになる。ボツワナに暮らす人たちみんなが笑顔になる。すごくやりがいを感じることができる仕事です」
電力開発は、地域経済の発展や社会貢献に直結する、大きな使命を帯びた事業だ。だからこそ、世界に挑戦し続ける価値がある――。電力本部の戦士たちは、きっとみな同じ想いだ。

*1 Engineering/Procurement/ Construction(=設計、調達、建設)の略。プラントやインフラ建設などにおいて、設計から資材調 達、建設工事を含む一連の工程を一括して請け負う事業、または事業者のこと。
*2 Independent Power Producer(=独立系発電事業者)の略。自ら所有する発電設備で作った電力を、電力会社に卸売する事業、または事業者のこと。
*3 南アフリカのツワナ族の間で使われる言語で、ボツワナ共和国の公用語。南アフリカ共和国、ジンバブエ、ナミビアなどでも使われる。

電力本部海外電力プロジェクト第四部電力事業第二チーム。2012年の入社以来、電力本部一筋。韓国出身。父の仕事の都合で10歳から日本在住。言葉もわからないまま、日本という異国に放りこまれた子供時代の経験から、文化や習慣の異なる人々と関わることができる商社の仕事に興味を持った。

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