
できないことは、みんなでやろう。
チリ銅鉱山・
拡張プロジェクト
PROJECT OUTLINE
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POINT.1
世界の発展成長・脱炭素社会実現に
不可欠な「赤い金属」、
重要鉱物・銅の安定供給の
一翼を担う。 -
POINT.2
チリの銅鉱山で
新規選鉱プラントの建設による、
既存銅鉱山の生産能力を大幅増強 -
POINT.3
英国・Antofagasta社と共同で
環境に配慮した
持続可能な責任ある銅生産。
需要増加が見込まれる銅の安定供給を通じて、
「責任ある生産」への取り組み・存在を世界へ示す

TOPIC.1取り組みの背景
社会・経済の成長発展・脱炭素社会実現に
欠かせない銅。
需要拡大が見込まれる中、懸念される将来の供給不足。
現在の、銅の需給状況について教えてください。
菅原 銅は社会・経済の発展成長に欠かせない金属です。銅は導電性、熱伝導性が高く、加工性に優れる事から送電線などのインフラから、自動車、スマートフォンなどの電気製品など身の周りの様々な所で使用されています。銅の需要は、新興国の発展に伴う電化・インフラ整備の拡大に加え、エネルギートラジションの動きからEV(電気自動車)や洋上風力発電等の再生エネルギーの拡大などによって、さらなる需要増加が見込まれています。
一方供給面においては、日本には銅鉱山がなく、銅地金の主原料となる銅精鉱は輸入に頼る構造です。しかし、既存の銅鉱山は銅品位低下や資源枯渇による生産量低下が顕著であり、さらに新規銅鉱山開発はカントリーリスクが高い案件、または奥地に存在するものも多く開発難度が高い現状があります。このような背景から、今後、供給拡大が限定的で、長期的に銅は供給不足に陥り、需給ギャップが拡大していく見通しです。
![インタビュー[イメージ]](../assets/img/project_img/project03-insert01.jpg)
そのような需給の中、丸紅はどのようなアクションを起こしたのですか?
菅原 丸紅は、2008年にチリ共和国(以下、チリ)のMinera Centinela社(以下、センチネラ銅鉱山)へ参入以降、長年にわたり英国・Antofagasta社と、銅鉱山の共同開発・運営を進めてきました。これまで、環境に配慮した持続可能な銅生産を行ってきています。さらに最新鋭の鉱山操業にも積極的に取り組み、事業価値向上を追求してきました。その中で、約10年に亘り検討していたのが、豊富な資源量を有するセンチネラ銅鉱山の拡張プロジェクトです。具体的には、新規の選鉱(採掘した鉱石を細かく粉砕後、不要鉱物と銅を含む鉱物を選別し銅純度を上げる工程)プラントを建設することで銅精鉱の生産能力を倍増させるものです。私自身は、拡張プロジェクトに関する鉱床買収、プロジェクトファイナンス組成、社内稟議、FID(Final Investment Decision=投資実施最終判断)が本格化するという時期にアサインされ、選鉱プラント建設に向けて検討を進めました。

TOPIC.2丸紅だけでは「できないこと」に
どのように向き合ったか?
プロジェクトへの深い理解と愛を持って取り組んだ。
人同士の信頼関係がプロジェクトを推進する力。
プロジェクトで、ご自身はどのような役割を担ったのですか。
菅原 プラント建設のための資金調達では借入可能な最大金額を借り入れるために政府系金融機関や民間金融機関とのプロジェクトファイナンス組成協議、契約書条件交渉、また鉱床買収では妥当な価格で買収するための技術・経済性デューデリジェンスの実施、提案等、ミッションは広範囲にわたりました。銅資源ビジネスは大地に眠るわずか銅品位1%以下の鉱石を相手に、現場で6000人超の人員を動員して取りかかり、30年以上に亘る長期プロジェクトへコミットする必要があります。地質、採掘、生産計画、メンテナンス、コスト、Capex(Capital Expenditure=長期的な価値を維持・創出するための投資)等の変動・リスク要素は多岐にわたります。それは、開発時の建設計画・契約においても同様です。プロジェクトを計画通り推進するには各分野の専門家への相談・意見交換は非常に大切なものとなり、私自身も本質となる技術への理解と愛を持ってプロジェクトと向き合う必要がありました。
![インタビュー[イメージ]](../assets/img/project_img/project03-insert03.jpg)
ミッション遂行にあたって印象に残っている取り組みを教えてください。
菅原 いくつもあります。資源ビジネス特有の国や政治のダイナミックな動きに翻弄され、法制度の設計変更に見舞われ、幾度となくFIDの後ろ倒しも体験しましたが、建設開始前の最後に印象に残っている点としてはプロジェクトファイナンスの組成でした。初期開発費用はUS$44億(当時の為替レートで約6500億円)と巨額。外部借入を最大化させつつ、チリの政治転換期であったことからも、政府系金融機関を巻き込みながら「Government to Government」のファイナンスに仕立てたいという株主間の合意があり、プロジェクトファイナンス組成は最重要事項でした。4つの政府系金融機関、4つの民間金融機関からのUS$25億(当時の為替レートで約3700億円)の調達では、ニューヨークで各金融機関・スポンサー・弁護士・アドバイザーが膝を突き合わせ、朝から晩までイシューリストを元に条件交渉を実施しましたが、ある条件がもとで両者の溝が埋まらず膠着状態にありました。双方疲弊している中、過去から付き合いのある金融機関、弁護士同士と積み上げてきた信頼関係をベースに、最終日にはお互いが納得する形で終えることができたと考えています。

「丸紅だけではできないこと」を実現するために大切なことは何でしょうか。
菅原 プロジェクトは、決して丸紅だけでできるものではなく、パートナー・社内外の関係者・各分野の専門家が一丸となることで実行できるものです。最終的には実績と歴史を積んできた丸紅とAntofagasta社の人間関係・信頼関係が大きなポイントになり、本プロジェクトが実行できていると感じています。当たり前ですが、「人同士」が仕事をしているという自覚・認識は非常に重要であり、尊敬が相手と仲良くなる出発点です。仲良くなれば相手の真意を知ることができ、強い人間関係が生まれます。「人がプロジェクトを完成させていく」ことを、今まで以上に強く実感しました。

TOPIC.3プロジェクトの今、そして意義
重要鉱物・銅の安定供給に果たす大きな役割。
環境に配慮した持続可能な「責任ある生産」の実践。
現在のプロジェクトの進捗と今後の展望を教えてください。
菅原 新規選鉱プラントの投資意思決定は2023年12月に行われ、2024年より建設を開始、2027年の生産開始を計画しています。新規の選鉱プラントには2鉱床から給鉱し、銅精鉱を生産する計画です。拡張プロジェクト後のセンチネラ銅鉱山全体の銅生産量は、約14万トン/年の増産により、生産量で世界有数の銅鉱山となる見込みです。また、副産物の金生産量でもチリ有数の金鉱山に分類される規模となります。現在は、現地のプロジェクトマネジャーを中心に建設が進捗中です。パートナー・当社チリ駐在員と連携し、「On Schedule、On Budget」での工事遂行のための管理をしています。また、鉱山は掘ったらなくなっていきますので、数年先を見据えた新規プロジェクトの仕込みも並行して行っています。
今回のプロジェクトの意義を教えてください。
菅原 重要鉱物である銅は、電気製品、モーターや発電機、変圧器、送電線などに使われ、「電気の時代」に必要不可欠な産業の血管、ベースメタルと呼ばれています。そして今、温室効果ガスの削減に向けて再生可能エネルギーの利用や移動手段の電化が進む中、2050年に向け需要の増加が予想されています。風力発電のタービンやケーブル・太陽光発電のパネルの電極や熱収集器、送電するための電力グリッド、電気自動車のモーターのコイルやバッテリー、チャージインフラなどもその一例です。つまり、銅は経済の成長発展、産業、社会生活に不可欠な金属です。パナマの大型鉱山が停止して以降、世界で銅精鉱の供給不足が発生し、将来の供給不足が懸念される中で、本プロジェクトは持続可能な銅の安定供給に大きな役割を果たすと考えています。日本は、銅地金の主原料である銅精鉱の全量を海外からの輸入に依存しているため、中長期的な銅資源確保は重要鉱物に対するサプライチェーンの強靭化への課題であり、本拡張プロジェクトにより課題解決の一端を担います。
また、センチネラ銅鉱山では、操業用水への100%海水利用、使用電力の100%再生可能エネルギー化、濃縮尾鉱(鉱石から銅成分を抽出した後の残渣)堆積等、環境に配慮した持続可能な銅生産を行っていることも特徴の一つです。2021年には、銅産業の「責任ある生産」ならびに国連が提唱するSDGsへの貢献を示す認証制度である「Copper Mark」を取得しています。センチネラ銅鉱山の取り組み・存在が世界に果たす意義は大きなものがあると考えています。
※写真提供 Antofagasta PLC
